新しい未来への旅立ち
相続の手続きが整い、測量も完了し、ようやく売却へ向けた準備が整いました。
しかし、ここからが本当の勝負でした。
「できるだけ高く」――
それは、単なる金額の問題ではありませんでした。
この家に流れた時間、そこに刻まれた思い出、そして何より、この家を手放すご決断をされたお客様の想いに、少しでも応えたい。
私たちは、複数の不動産業者さんに声をかけ、一社一社丁寧に物件をご紹介していきました。
⸻
最初の査定額は、決して高いものではありませんでした。
「やはり、この状態だと厳しいですね」
「家が大きい分、解体費用も相当高くなりますからね!!」
それでも、諦めずに。
一社、また一社と――。
そして、ついに。
「この物件、うちで買い取らせていただきたい」
そう名乗り出てくださる業者さんが現れました。
しかも、その価格は当初の想定をはるかに上回るものでした。
さらに驚いたことに、他の業者さんからも次々と手が挙がり、自然と”競合”の形になりました。
最終的に決まった売却価格は、当初よりもかなり高い金額となりました。
お客様にその金額をお伝えした時、電話の向こうから、安堵のため息が聞こえました。
「…本当に、ありがとうございます」
その一言が、胸に染みました。
⸻
それぞれの想いが交わる場所
遠方にお住まいのお姉様、施設にいらっしゃるお母様の後見人の方、そして息子様――。
それぞれに事情があり、それぞれに想いがありました。
けれど、最後には皆様が「この家を、良い形で次へつなぎたい」という一点で心を一つにしてくださいました。
ご契約の場に立ち会いながら、私は改めてこの家のことを思いました。
⸻
家が見守ってきた時間
建てた当初、この家にはどんな家族の笑い声が響いていたのでしょう。
お父様とお母様、そして息子様、お姉様。
きっと、賑やかな食卓があり、楽しくくつろぐ日々があったのでしょう。
やがて時が流れ、家族構成は変わっていきました。
お父様は他界され、お母様は施設へ。
お姉様は遠方へ越され、息子様もこの家を離れました。
――けれど、家はずっとそこに佇み、すべてを見守ってくれていました。
笑い声が消えても、人の気配がなくなっても、
雨の日も、風の日も、
家は、ただそこにありました。
⸻
寂しさが、胸を締めつける
契約が無事に終わり、家の引き渡しが完了しました。
この家は、解体されることになります。
新しい持ち主のもとで、新しい建物が建てられることでしょう。
それは、前に進むということ。
次のステージへとつながること。
頭では分かっています。
けれど――。
最後にもう一度、この家を訪れた時。
私は、なんとも言えない感情に包まれました。
寂しさ。
哀しみ。
そして、温かさ。
ここには、たくさんの思い出が詰まっていました。
お父様の、お母様の、息子様の、お姉様の――。
それぞれの人生が、この家の中で交わり、刻まれていったのです。
私は、仲介業者として関わっただけの
”他人”です。
それなのに、この家がなくなることが、こんなにも寂しい。
もしかしたら、それは――
家が、人を包み込む力を持っているからかもしれません。
家は、ただの”物件”ではありません。
そこには、時間があり、物語があり、人生があります。
⸻
心の中で、この家に語りかけました。
「お疲れ様でした!!」
「ありがとうございました!!」
新しい未来へと向かう、この土地
⸻
家のこれから、人生のこれから。
私たちは、その”つなぎ目”に立ち会わせていただいています。
それは、寂しくもあり、温かくもある――。
そんな仕事を、これからも大切に続けていきたいと思います。
⸻
